外に出ない生活が昼夜逆転を招く ― 体内時計と光の関係

高齢者の睡眠の乱れは「年齢のせい」だけではない

 年齢を重ねると、寝つきが悪い、日中に眠くなる、朝起きられない、昼夜が逆転するといった睡眠の悩みが増えます。こうした変化は加齢の影響と考えられがちですが、近年では日中の光不足も大きな要因であることが分かってきました。

私たちの体内時計は毎日浴びる光によってリセットされます。しかし、退職や身体機能の低下などで外出が減る高齢者は光不足になりやすく、体内時計が乱れ、睡眠と覚醒のリズムが崩れやすくなります。

室内照明は数百ルクス程度ですが、曇りの日の屋外でも1万ルクスを超えます。この大きな光量の差が体内時計を整える刺激の不足につながり、睡眠の乱れや昼夜逆転を招くと考えられています。

ここからは、光が体内時計や睡眠に与える効果を科学的に示した3つの研究を紹介します。

 

研究① 光がアルツハイマー病患者の眠りを立て直す

重度のアルツハイマー病の患者では、夜中に何度も目が覚める、日中に強い眠気に襲われる、夕方に落ち着きを失う「夕暮れ症候群(サンダウニング)」といった症状がよくみられます。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のAncoli-Israelらによる2003年の研究では、認知症の高齢者を対象に、1日2時間・10日間にわたって2,500ルクスの明るい光を朝または夕方に浴びてもらいました。結果は次の通りです。

・朝・夕いずれの光でも夜間のまとまった睡眠が長くなり、睡眠が安定した(最長の連続睡眠時間が延びた)

・特に夕方の光は、概日リズムの質、つまりリズムの強さと規則正しさを高めた

 

研究② 体内時計は「わずか15秒の光」にも反応する

ハーバード大学医学大学院ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のグループが2017年に行った研究は、健康な若年成人26名を9日間、時刻の手がかりがない環境に隔離し、夜間に一度だけ短い光を浴びせて、体内時計がどれだけずれるかを調べました。結果は次の通りでした。

  • 15秒の光(9,500ルクス):体内時計が約35分後ろにずれた
  • 2分の光(9,500ルクス):約45分後ろにずれた

これは、夜間のわずかな光が不眠の隠れた原因になりうる一方、ごく短い光でも体内時計の乱れを治療できる可能性の両方を示しています。

 

研究③ 寝ていても、光は体内時計を動かす

米国レンセラー工科大学のFigueiroらによる2013年の研究では、健康な成人16名を対象に、睡眠中の閉じたまぶたへ光を当て、体内時計がどれだけずれるかを調べました。

①青色光(約480nm)を2秒間、1分ごとに点滅させて1時間照射

②緑色光(約527nm)を1時間連続で照射

③緑色光(約527nm)を2秒間、1分ごとに点滅させて1時間照射

④光を当てない暗闇(対照群)

結果は次の通りでした。

①青色光の点滅は、体内時計の位相(メラトニン分泌の開始時刻)を有意に後ろへずらし、夜間のメラトニン分泌も有意に抑えた。

緑色光は②「連続照射」では効果があったが、③「点滅」では体内時計を確実に動かせなかった。

この研究では、目を閉じて眠っている間でも、短い青色光のパルスだけで体内時計を動かせることを示しました。

 

3つの研究が伝えるメッセージ

 3つの研究はいずれも、「光は体内時計を動かす刺激である」という共通の結論を示しています。

昼夜逆転を防ぐためには、特別な治療よりも毎日自然光を浴びる生活習慣が非常に重要と考えられます。

・できれば2時間しっかり光を浴び、体内時計をリセットする。

・長時間の外出が難しければ、1日数分でも外に出て自然光を浴びる。屋外は曇りでも1万ルクスを超え、室内照明よりはるかに強いため、短時間でも効果が期待できる

・自力で歩けなくても、車いすで屋外やベランダ、窓辺に移動するだけで十分。外出を毎日の習慣にする

・夜は強い光、特にスマートフォンやパソコンの光を控え、就寝前の体内時計の乱れを防ぐ

 

光を味方につけることは、特別な道具がなくても今日から始められる、睡眠改善の第一歩です。

 

参考文献

Ancoli-Israel S, et al. Increased Light Exposure Consolidates Sleep and Strengthens Circadian Rhythms in Severe Alzheimer's Disease Patients. Behavioral Sleep Medicine. 2003;1(1):22-36.

Rahman SA, et al. Circadian phase resetting by a single short-duration light exposure. JCI Insight. 2017;2(7):e89494.

Figueiro MG, Bierman A, Rea MS. A train of blue light pulses delivered through closed eyelids suppresses melatonin and phase shifts the human circadian system. Nature and Science of Sleep. 2013;5:133-141.

 

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