仕事中に、楽しんでいいんです

「仕事中なのに楽しんで、すみません」

最近、続けて2人のスタッフから同じ言葉を聞きました。

利用者様と季節の花を見に行ったりした後の一言でした。

でも、その「楽しさ」は、謝るようなものではありません。むしろ、ケアの質そのものです。心理学の研究が、それを示しています。

 

情動感染 ── 「楽しい」は、相手に伝わっている

人は、一緒にいる相手の表情・声・しぐさを無意識に真似て、感情まで同調させていきます。これを情動感染(emotional contagion)と呼びます(Hatfield, Cacioppo & Rapson, 1993)。相手が笑えばこちらの頬もゆるみ、こちらが穏やかなら相手も和らぐ。感情は、意図せず伝染していきます。

医療・介護の現場を対象にした研究でも、ケアする側が受け取る「喜び」の情動感染は、仕事の満足感を高める資源として働くことが示されています(Petitta, Jiang & Härtel, 2017)。

つまり、あなたが心から楽しんでいるとき、その楽しさは利用者様に伝わっています。あなたの笑顔が、利用者様の笑顔をつくっているのです。

 

共有体験増幅効果 ── 一緒だから、「楽しさ」は大きくなる

Boothby, Clark & Bargh(2014)は、「同じ体験を誰かと共有すると、その体験は増幅される」ことを実験で示しました。

参加者においしいチョコレートを味わってもらったところ、隣の人が同時に同じチョコを食べていると、一人で食べたときより「おいしい」と感じました。逆に、まずいチョコは、共有するとより「まずい」と感じられました。共有は、良い体験も悪い体験も増幅します。

そして、この増幅は、心理的に近い相手との間で強く起こることも分かっています(Boothby et al., 2016)

日々そばで関わるヘルパーと利用者様は、まさにその「近い相手」です。

 

「自分だけの楽しさ」はダメ

問題なのは利用者様を置き去りにした「自分だけの楽しさ」です。それはケアとは言えず、ただの遊びです。

「情動感染」も「共有体験」も、利用者様と向き合って起こる現象です。

 

楽しむことも介護の一部

利用者様と一緒に花を眺め、「きれいですね」と喜び合う時間は、単なるレクリエーションではありません。

あなたが楽しんでいることは、情動感染によって利用者様に温かさとして伝わり、共有体験増幅効果によって利用者様の楽しさを大きくしています。

一緒に季節を感じ、一緒に楽しむことは、利用者様の生活の質(QOL)を高める大切なケアの一つです。

 

仕事中に、楽しんでいいんです。

 

参考文献

  • Hatfield, E., Cacioppo, J. T., & Rapson, R. L. (1993). Emotional Contagion. Current Directions in Psychological Science, 2(3), 96–100.
  • Boothby, E. J., Clark, M. S., & Bargh, J. A. (2014). Shared Experiences Are Amplified. Psychological Science, 25(12), 2209–2216.
  • Boothby, E. J., Smith, L. K., Clark, M. S., & Bargh, J. A. (2016). Psychological Distance Moderates the Amplification of Shared Experience. Personality and Social Psychology Bulletin, 42(10), 1431–1444.
  • Petitta, L., Jiang, L., & Härtel, C. E. J. (2017). Emotional contagion and burnout among nurses and doctors: Do joy and anger from different sources of stakeholders matter? Stress and Health, 33(4), 358–369.

 

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