「寝たきり」が体に与える影響
- 離床、リハビリの効果 –
今回は、安静臥床がもたらす全身への影響と、なぜ早期からの離床、リハビリテーションが重要なのかについて、研究結果を交えながら解説していきます。
宇宙飛行士と同じ状態? ベッド上で安静の意外な真実
ベッド上で横になり続けることは、宇宙空間に滞在することと似た生理的影響を体に与えます。1960年代の宇宙開発時代から、この現象について多くの研究が行われてきました。
健康な若者が20日間ベッド上で安静にしただけで、最大酸素摂取量(持久力の指標)が27%も低下したことが「ダラス・ベッドレスト研究」で報告されています。
全身に及ぼす影響
1.筋肉・骨への影響
筋肉の衰え
・10日間の安静で約5.3%の筋肉量が減少
・病気の方では15.5%も減少する場合も
・1日の安静で1〜4%の筋力低下
・3〜5週間で約50%まで筋力が低下
骨密度の減少
- 3週間の安静で骨盤の骨密度が7.3%減少
- 20週間では30〜50%もの減少を認める場合も
- 骨粗しょう症のリスクが大幅に上昇
関節の硬さ
- 約2週間で関節包が変化し始める
- 関節が動かしにくくなり、日常生活に支障
2.心臓・血管系への影響
起立性低血圧の発生メカニズム
寝ている状態が続くと、体は「血液が多すぎる」と勘違いして、以下のような変化が起こります:
- 循環血液量が減少(24時間後に5〜10%、20日後には15%減少)
- 心臓が小さくなる(6週間で左心室容量が有意に減少)
- 立ち上がったときに血圧を維持できなくなる
- めまいや失神のリスクが上昇
その他の循環器系への影響
- 持久力の指標である最大酸素摂取量が1日あたり約0.9%低下
- 深部静脈血栓症のリスク上昇(エコノミークラス症候群と同様)
3.呼吸器系への影響
横になっていると、お腹の臓器に押されて横隔膜が4cmも上がってしまいます。その結果:
- 機能的残気量が15〜20%減少
- 肺活量、咳の力が低下
- 下側の肺に分泌物が溜まりやすくなる
- 肺炎のリスクが上昇
実際、座位と比較して仰臥位では、肺活量や咳の最大流速が有意に低下することが分かっています。
4.その他の全身への影響
消化器系
- 腸の動きが低下し、便秘になりやすい
- 腹部の張りや痛みが増加
泌尿器系
- 尿路結石ができやすくなる
- 高カルシウム血症のリスク
精神・神経系
- 活力の低下、混乱の増加
- 術後せん妄の発症リスク上昇
- うつ症状の出現
ICUで注目される「ICU-AW」という概念
集中治療室(ICU)では、「ICU-acquired weakness(ICU-AW)」という、重症患者に起こる全身の筋力低下が問題となっています。
- 発生率:9〜96%(中央値47%)
- 敗血症患者では60〜100%と高率
- 人工呼吸器からの離脱困難
- 入院期間の延長
- 退院後の生活の質(QOL)低下
この ICU-AW の重要な危険因子の一つが「不動化」、つまり動かないことなのです。
離床と運動がもたらす劇的な効果
筋骨格系の回復
- 最大筋力の20〜30%の筋収縮で筋力維持が可能
- 30%以上の筋収縮で筋力増加
- 適切な訓練により、週12%程度の筋力増加が期待できる
- 関節可動域訓練により、6ヶ月後に有意な改善
循環器系の改善
- 最大酸素摂取量が15〜25%増加
- 心不全患者では入院率・死亡率の低下
- 血圧調節機能の改善
呼吸器系の改善
- 術後呼吸器合併症の減少(3.0% vs 4.2%)
- 早期離床により呼吸器合併症が1/3に減少
- 入院期間の短縮
ICUでの早期リハビリの効果
ICUでの早期リハビリテーション研究では:
- 退院時の機能的自立度が有意に改善(59% vs 35%)
- 日常生活動作(ADL)スコアの改善(75点 vs 55点)
- せん妄期間の短縮
- 人工呼吸器装着期間の短縮
ベッド上でのサイクルエルゴメーター運動でも、退院時の運動能力や筋力の改善が報告されています。
今すぐできること
1.可能な限り早期に離床を
- 安全な範囲で座位や立位を
- ベッドをギャッジアップするだけでも効果あり
2.ベッド上でもできる運動を
- 足首の運動(血栓予防)
- 深呼吸(肺炎予防)
- 関節の曲げ伸ばし(拘縮予防)
3.栄養管理も重要
- 十分なタンパク質摂取
- 運動と栄養の組み合わせで効果倍増
まとめ:「動く」ことは最高の薬
安静臥床の弊害は、私たちが想像する以上に深刻で、全身のあらゆる臓器に影響を及ぼします。一方で、早期からの離床や運動は、これらの悪影響を防ぐだけでなく、最終的な機能回復を高め、回復期間を短縮させる効果があります。 「安静第一」という考え方から、「適切な活動こそが回復への近道」という認識への転換が必要です。
参考文献
佐藤 知香, 梅本 安則, 田島 文博.安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について
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