1.6 冬の約束

 午後、私とおばあちゃんは一緒に買い物へ。途中、おばあちゃんが提案した。
「ねえ、今日はちょっと遠回りして、川沿いを歩いてみるのはどうかしら?」
厚別川の沿岸には、土手が続いている。この土手は、川の水位が上昇した際の洪水対策としての役割も持っているが、同時に遊歩道としても利用されている。
土手の上を歩けば、川の流れや向こう岸の景色が一望できる。川の水面は静かに流れていて、河川敷は白銀の雪に覆われていた。夏には賑わうパークゴルフの場所も、今は雪の下。
「おばあちゃん、覚えてる?子供の頃、買い物に行く時は、ソリに乗せてもらって、引っ張ってもらってたよね?」
「あら、それは覚えてるわ。美香ちゃん、ソリに乗るのが大好きで、スーパーまで引っ張ってってって頼むのよ。そうしないと大泣きして…。でも美香ちゃんが楽しそうにしてるから、おばあちゃんも嬉しかったわ。」
その時、ジョギングをしている人が私たちを追い抜いていった。おばあちゃんが突然、目を輝かせて言った。
「ちょっと走ってみる?」
「マジで?」私は笑いながら言った。
それに対し、おばあちゃんは意気込んで「ほら、見てて!」と軽快に走り始めた。
思っていたよりもおばあちゃんは早かった。私も慌てて後を追いかけた。
「おばあちゃん、意外と速いね!」と息を切らしながら追いかけた。

「結構買ったね。おばあちゃん、これいつも1人で持ってるの?」と尋ねると、おばあちゃんは、
「こうすると軽くなるのよ。」と得意げに言い、肘を曲げて、手で持っていた買い物袋を腕に持ち替えた。
その時、道の凍った場所で、おばあちゃんが足を滑らせそうになった。慌てておばあちゃんを支え、
「大丈夫?」と尋ねると、
「ありがとう、美香ちゃん。腕の服のところをつかませてくれるかい?」と言うので、おばあちゃんに腕を差し出した。
「ここつかむだけでいいの?」
「ここをつかんでいれば安心するのよ。」
下を見ると、おばあちゃんは私の中学の時のジャージを履いている。その瞬間、涙が出そうになった。おばあちゃん、私を育てるだけで一生懸命で、自分のためには何も贅沢なんかしないで。

 おばあちゃんは微笑んで言った。
「美香ちゃん助かるわ。来年もまた来てくれるかい?」