1.2 シャンデリアの下で

 「よし、乾杯しようか。今日も一日頑張った私たちに!」ユカリが声を上げた。私たちは西麻布のビストロに集まっていた。アンティークのシャンデリアから落ちる柔らかな光、ジャズの音色がくつろいだ雰囲気を作り出している。今日は女子会、仕事や日常生活で集まることの難しい私たちは、この日をとても楽しみにしていた。その特別な日を祝うかのように、私たちはグラスを掲げ、「乾杯!」と声を合わせた。シャンパンがグラスの中で輝き、その明るさが私たちの笑顔にも伝わった。
「うーん、これ、いいシャンパンね。甘すぎず、辛すぎず、さすがはユカリの選んだワインだわ」とサキがニコリと微笑んだ。それに対してユカリが「これは初めてなんだけど、良い選択だったみたいね。」とホッとした表情で返答した。

 最初に出てきたのはカルパッチョ。魚の身が透き通っていて、上から振りかけられたセルフィーユの緑が際立って見えた。「キャー、これ、見て!すごく美味しそう!」と目を輝かせるみゆき。「さっそくいただきましょう!」とユカリが快く提案し、一同は賛成の声を上げた。
「これ、ソーヴィニヨン・ブランとよく合うね。」サキが一口飲んで感想を述べた。「ほんとだ、美味しい組み合わせだわ。私たち、なんだか食通になった気分!」とみゆきが楽しそうに応じた。「そうそう、ここはモンラッシェをグラスで出してくれるのよ。後で出てくるオマール海老のグリルに合うと思うわ」「あ、それいいね!ユカリ、さすがだわ」とサキが喜びの声を上げた。

 ユカリが「みんな、実は私、最近ゴルフを始めたの」と新しい趣味を明かすと、「え、ユカリがゴルフ?難しくないの?」と驚くみゆき。「最初は確かに難しいけど、一度慣れれば風の向きや地形を読むのが楽しいわ。自然の中でリラックスもできるし。」ユカリの言葉に私は「それなら私もやってみたいな。」と意欲的に応えた。「美香、もし始めるなら一緒にやろう!私も少し興味あるの」サキが提案し、みゆきが「それなら次は女子ゴルフ会だわ!楽しみね。」と盛り上がった。
その後、サキが「この間見つけたんだけど、このブランドの新作バッグ、すごく可愛いのよ!」と話を切り出した。「え、それ見せて!確かに、これはサキにピッタリだわ!」とユカリが言うと、ユカリとサキが共に笑顔を交わした。「それ、実は私もチェックしてたの。サキと同じセンスだってわかって嬉しい!」とみゆきが喜びを表現した。
「そういえば美香、彼氏はまだなの?」とユカリが私に尋ねる。「うーん、なんとなく忙しくてさ。でも、いい人がいればな~。」と苦笑いを浮かべた。「大丈夫!美香。私たちがいるわ。こんなに楽しかったら彼氏はいらないわよ。」とみゆきが慰めてくれた。

 「今まで5品、結構食べたね。ユカリ次はデザート?」とみゆき。「そう、デザートはクリームブリュレよ。」運ばれてきたクリームブリュレは、ブランデーがほんのりと香る、焦がした砂糖の香ばしさと冷たいカスタードクリームの対比が絶妙だった。スプーンを突き刺すと、カリカリの表面が割れて中のクリームがあふれ出る。「この甘さ、一日の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれるわね。」と私。「本当、幸せだわ!仕事頑張ってきてよかったわ。」とユカリ。みんなが笑顔で頷いた。

 食事が終わった後、サキが「二次会どうしようか?」、ユカリが「みんなでシミュレーションゴルフに行かない?」その提案にみんなは驚いたが、すぐに「それ、いいね!」と、全員が口を揃えて言った。
「なかなか当たらないわね。手で投げちゃえ。」とはしゃぐみゆきに、「手で投げちゃだめよ、みゆき。ゴルフはクラブを使うの。」とたしなめるユカリ。「えーそうなの。」と無邪気に答えるみゆき。
「まさかこんなに面白いと思わなかったわ!」と言うサキに、ユカリが「また来ようね!」と笑顔で返す。
シミュレーションゴルフは、酔いもあってスコアは散々だったが楽しかった。みんなで過ごす時間は、毎日の疲れを忘れさせ、心をリフレッシュさせてくれた。

 満たされた幸せが心を包み、こうした日々は当たり前だと思っていた。
このことがどれほど貴重な時間だってことが、当時の私は全く分かっていなかった。